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松山地方裁判所 昭和44年(行ウ)1号 判決

原告 今岡豊秀

被告 愛媛県知事

訴訟代理人 河村幸登 外九名

主文

1、原告の、工作物撤去および土地埋戻しを命じた行政処分の取消しを求める請求は、これを棄却する。

2、原告の堤防撤去敷地明渡しを求める訴は、これを却下する。

3、訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告(請求の趣旨)

1、被告が原告に対し、昭和四二年七月一一日、伊予市下吾川海岸の工作物撤去および土地埋戻しを命じた行政処分は、これを取消す。

2、被告は、原告に対し、伊予市下吾川海岸一七〇七番地一に設置した堤防(別紙図面(省略・以下同じ)VII VIII線からIII IX線にいたる部分)を徹去してその敷地を明渡せ。

3、訴訟費用は、被告の負担とする。

二、被告(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨。

第二、当事者の主張

一、請求の趣旨第1項についての請求原因

1、原告は昭和四二年六月ころ、伊予市下吾川海岸の別紙図面(a)地点(堤防法尻)に、ポンプ小屋(約三・三平方メートル、以下本件工作物という)を設置し、また、そのころ、同図面点線で囲んだ部分の土地を掘削した。

2、被告は、同年七月一一日、原告に対し、右工作物設置箇所および掘削箇所は、被告が昭和三二年九月一三日愛媛県告示第七二一号で指定した下吾川海岸の海岸保全区域内であり、かつ、右工作物設置および土地掘削について海岸管理者である被告の許可を受けていないから、それぞれ海岸法七条および八条に違反するとして、同法一二条に基き、同月二〇日までに原告において左記の行為をなすことを命じ、そのころ原告に通知した。

(1)  堤防法面部分に設置した本件工作物を撤去すること。

(2)  堤防から陸地側五メートル以内の土地掘削箇所は従前の地表まで埋戻しを行ない、原状回復すること。

(3)  堤防から陸地側五メートルをこえる土地の掘削箇所は、従前の地表から深さ一・五メートルまで埋戻しをすること。

3、そこで、原告は、右命令を不服として、同年九月五日、建設大臣に対し、審査請求をしたが、いまだその裁決はない。

4、しかしながら、右命令は、次に述べる理由により違法であるから、取消されるべきである。

(1)  海岸保全区域の指定を規定する海岸法三条に基く昭和三二年九月一三百愛媛県告示第七二一号によれば、海岸保全区域は、「堤防のある部分にあつては、陸域は、堤防法尻から二〇メートル以内にある土地。水域は、昭和三二年三月二一日(春分の日)の干潮線から五〇メートル以内の海面」と定められているが、この場合の陸域とは、海側の堤防法尻から海側へ二〇メートル以内にある土地を指すものと解すべきである。したがつて、陸側の堤防法尻から陸側の土地に存する本件工作物設置箇所および土砂掘削箇所は、海岸保全区域内にあるとはいえないから、海岸保全区域内にあることを前提とする本件各命令は、違法である。

被告は、海岸保全区域の陸域とは、陸側の提防法尻から陸側へ二〇メートル以内にある土地であるから、本件工作物設置箇所および土地掘削箇所は海岸保全区域内である旨主張するが、これは、「海岸保全区域は、海岸を災害から防護するために必要な最小限度の区域にとどめ、国民の権利を不当に制限することのないよう十分配慮すること等」とする昭和三一年一一月一〇日付三一農地第四、八二二号等都道府県知事等あて農林事務次官等通達の趣旨に反する解釈であつて、右告示を誤解している。

(2)  かりに、本件工作物設置箇所が海岸保全区域内であるとしても、海岸法七条一項によれば、海岸管理者以外の者がその権原に基き管理する土地は、工作物を設置して、その土地を占用するにつき海岸管理者の許可を受けるべき海岸保全区域から除外されているところ、原告は、後述のとおり、昭和三〇年一一月二四日、前所有者横山種五郎から、本件工作物設置箇所を含む伊予市下吾川海岸一七〇七番一を同一七〇六番二とともに買受け、これを所有しているから、右土地は原告がその権原に基き管理する土地であつて、海岸管理者の許可を要しない。したがつて、原告のなした本件工作物の設置は、被告の許可を得ていなくても適法であつて、被告のなした右工作物撤去命令は違法である。

よつて、原告は、被告に対し、請求の趣旨第1項記載のとおり裁判を求める。

二、請求の趣旨第2項についての請求原因

1、原告は、昭和三〇年一一月二四日、前所有者横山種五郎から、伊予市下吾川海岸一七〇六番二と同一七〇七番を買受けた(もつとも、右一七〇六番二の土地については同日所有権移転登記を経由したが、右一七〇七番の土地については司法書士の手落ちで登記がなされなかつた。なお、現在伊予登記所に備付けてある当該土地付近の地図には一七〇七番一という区画があるのみで、原告が買受けた一七〇七番の区画はないが、右一七〇七番一として区画されている土地の一部は、原告が一七〇七番として買受けた土地として別個に区画されるべきであつた。昭和三〇年および昭和三六年当時の伊予登記所備付地図はそうなつていたが、右現存する地図は旧地図を絵具で塗りつぶして変造されている)。

2、ところが、被告は、右土地内に堤防を築造して、その敷地四一九・一平方メートル(一二七坪、別紙図面線VII VIII線からIII IX線にいたる部分)を不法に占有している。

よつて、原告は、被告に対し、所有権に基き、請求の趣旨第2項記載のとおり裁判を求める。

三、請求の趣旨第2項に対する被告の本案前の答弁

原告は、請求の請求の趣旨第2項において、行政庁としての被告愛媛県知事に対し、堤防の撤去を求めているが、右訴は通常の民事訴訟であるから、堤防の所有者である訴外国を被告として提起すべきであつて、国の機関にすぎない被告愛媛県知事は権利主体ではなく、かかる訴につき被告適格を有せず、したがつて右訴は不適法として却下を免れない。

四、被告の本案前の答弁に対する原告の反論

原告が和四四年三月五日に伊予土木事務所において海岸保全区域台帳の帳簿を閲覧したところ、右帳簿の一部である下吾川海岸保全施設調書に当該箇所の堤防の所有者は愛媛県知事であると明記されていたし、また国有財産法九条三項の規定からみても、本件堤防の所有者は被告愛媛県知事であるというべきであるから、被告は当事者適格を有するものである。

五、請求原因一に対する被告の認否

1  請求原因一第1項ないし第3項は認める。

2  同第4項中、後記被告の主張に牴触する部分を争い、他は認める。

六、請求原因二に対する被告の認否

1  請求原二第1項中、原告が昭和三〇年一一月二四日に前所有者横山種五郎から伊予市下吾川字南西原一七〇六番二を買受けたことは認めるが、他は争う。これについての被告の主張は、後記被告の主張第2項において詳述するとおりである。

2  同第2項は争う。被告愛媛県知事は、堤防の管理者であるが所有者ではない。

七、被告の主張(本件行政処分の適法性)

1、(本件両箇所が海岸保全区域であることについて)

被告愛媛県知事は、海岸法三条の規定に基き、昭和三二年九月一三日付愛媛県告示第七二一号をもつて、伊予市下吾川一、七〇七番から同市港町三一六番までの間(右区域は右一七〇七番の北端の大谷川南岸の石垣から順次南へ連なつている)のうち、「堤防のある部分にあつては、陸域は、堤防法尻から二〇メートル以内にある土地。水域は、昭和三二年三月二一日(春分の日)の干潮線から五〇メートル以内の海面」を海岸保全区域と指定した。

ところで、右告示は、海岸法三条の規定に基いて制定されたものであるから、右告示も海岸法の趣旨にそつて解釈されなければならないところ、同法三条三項によれば、海岸保全区域は陸地と水面にまたがつて指定され、陸地の側の端は指定の日の属する年の春分の日における満潮時の水際線から陸側へ五〇メートル以内のところへまた水面の側の端は右春分の日における干潮時の水際線から水面の側へ五〇メートル以内のところへ、それぞれ指定されるべきものでこの陸地の側と水面の側の各端により囲まれた区域が海岸保全区域となるものである。そうすると本件の海岸保全区域は、堤防の裏(陸側)法尻から陸側へ二〇メートル以内にある土地(陸域)と昭和三二年三月三一日(春分の日)干潮線から海側へ五〇メートル以内の海面(水域)とによつて囲まれた区域内をいうと解すべきであり、原告の本件工作物設置箇所および土地掘削箇所はいずれも右区域内にあるから、右両箇所が海岸保全区域内にあることは明らかである。

この点について、原告は、区域とは堤防の表(海側)法尻から海側へ二〇メートル以内にある土地を指すものと主張しているが、このような解釈は、表法尻が直接水面に接していて土地が全く存在しない海岸では成り立つ余地のないものであるうえ、海岸保全区域を指定した目的にも反するものである。すなわち、海岸法一条および三条によれば、都道県知事は、津波・高潮・波浪その他海水または地盤の変動による被害から海岸を防護し、もつて国土の保全に資するため必要があると認めるときに、海岸保全区域に指定するものであり、その目的を達成するため、海岸保全区域内での工作物の設置、土砂の採取あるいは土地の掘削などを規制している(同法七条および八条)ものであるが、もし陸域について原告主張のような解釈をとると、本件の堤防敷地および裏法尻から陸側へ二〇メートル以内の土地は、海岸保全区域に含まれないことになり、同所において、何らの制限もなく工作物を設置し、土砂を採取し、あるいは土地を掘削することができることになる(ことに本件では、原告は裏法尻に隣接した土地を掘削しており、そのため堤防の根元を震出させるに至つている)が、これが海岸保全区域を指定した目的に反することは明らかである。

そして、原告は、本件工作物の設置および土地の掘削について被告の許可を得ていないから、原告の右行為は海岸法七条および八条に違反するものというべく、したがつて、本件行政処分は適法である。

2、 (本件工作物設置箇所の敷地の所有権について)

本件工作物の設置箇所である堤防の敷地部分は、もと伊予市下吾川字南西原一七〇六番二であつて原告の所有であつたところ、そのうち堤防の敷地五二四・七平方メートル(一五九坪)の部分は、昭和三〇年一二月一二日に同一七〇六番三として、同じく堤防の法面部分の敷地四一九・一平方メートル(一二七坪)は、昭和三三年一二月一二日に同一七〇六番四として、それぞれ訴外伊予市が原告から買受けて、当時分筆のうえ所有権移転登記を経由したものであつて、本件堤防敷地は訴外伊予市の所有にかかるものである。かりに係争地たる堤防敷地部分の全部もしくは一部の地番が、原告主張のように同一七〇七番一であるとしても、同係争地は、訴外伊予市が現況において原告から買受けたものであるから、これが伊予市の所有にかかるものであることに変りはない。

以上のとおり、原告は、本件堤防敷地につき、所有権を有せず、またその他いかなる権原をも有しないので、本件堤防敷地は海岸法七条一項かつこ内にいう「海岸管理者以外の者がその権原に基き管理する土地」に該当しないものというべきであるから、海岸管理者である被告愛媛県知事の許可を得ていない本件工作物の撤去を命じた行政処分は適法である。

八、被告の主張に対する原告の反論

1、被告の主張第1項中、第一段(「被告愛媛県知事は」以下「海岸保全区域と指定した」までの部分)、および、原告が本件工作物の設置および土地の掘削につき被告の許可を得ていないことは認めるが、その余の被告の主張は争う。

2、同第2項中、訴外伊予市が昭和三〇年一二月一二日と昭和三三年一二月一二日の二回にわたつて、一七〇六番三と同番四の土地を原告から堤防敷地として買受け、当時所有権移転登記を経由したことは認めるが、その余の主張は争う。本件係争部分の堤防敷地は、伊予市下吾川海岸一七〇七番一であつて、原告の所有にかかるものであつて、この部分は訴外伊予市に売却していない。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

第一、工作物撤去・土地埋戻し命令取消の請求について

一、請求原因第1項ないし第3項は、当事者間に争いがない。

二、(海岸保全区域の範囲について)ところで、被告愛媛県知事が、海岸法三条の規定に基き、昭和三二年九月一三日付愛媛県告示第七二一号をもつて、伊予市下吾川一、七〇七番から同市港町三一六番までの間(右区域は一、七〇七番の北端の大谷川南岸の石垣から順次南へ連なつている)のうち、「堤防のある部分にあつては、陸域法尻から二〇メートル以内にある土地。水域は、昭和三二年三月二一日(春分の日)の干潮線から五〇メートル以内の海面」を海岸保全区域と指定したことは当事者間に争いがなく、本件工作物の設置箇所および土地の掘削箇所が、堤防の裏(陸側)法尻から陸側へ二〇メートル以内にある土地と、昭和三二年三月二一日(春分の日)の干潮線から海側へ五〇メートル以内の海面とによつて囲まれた区域内にあることは、検証の結果と弁論の全趣旨に照し明らかであるところ、原告は、右告示の「陸域」とは堤防の表(海側)法尻から海側へ二〇メートル以内にある土地を指すものに対し、被告は、堤防の裏(陸側)法尻から陸側へ二〇メートル以内にある土地を指すものと主張するので、まずこの点について検討する。

いうまでもなく、右愛媛県告示は、津波・高潮・波浪その他海水または地盤の変動による被告から海岸を防護するという海岸法一条の目的を遂行するために、同法三条一項の規定に基いて制定されたものであるから、右告示は、この目的にそうように解釈されなければならないものである。そして、本件のように、堤防を設置して海岸の保全にあたる地域においては、堤防の防護がすなわち海岸の防護であるといつても過言ではないほど、海岸の保全にとつて堤防の防護は必要不可欠なものであるから、右告示の趣旨は、堤防の防護という目的に合致するように解釈しなければならないことは、いうまでもない。そうだとすれば、右告示にいう「陸域」とは、堤防の裏(陸側)法尻から陸側へ二〇メートル以内にある土地を包含するものと解するのが相当である。けだし、もし、右区域内の土地が海岸保全区域に含まれないものとすれば、海岸法七条および八条の規制を受けないこととなり、堤防の裏法尻から陸側の土地は、どのように堤防に近接したところで堤防の防護に必要不可欠の土地であつても、海岸管理者の許可なくして、自由に工作物の設置や土地の掘削あるいは土砂の採取などができることになり、かくしては堤防の防懇を全うできないこと明らかであつて、海岸法が海岸保全区域を指定せしめた目的にそぐわないこととなるからである。

以上の次第で、堤防の裏(陸側)法尻から陸側へ二〇メートル以内にある本件工作物の設置箇所および土地の掘削箇所は前記告示の海岸保全区域内に含まれるということができる。

三、(本件工作物設置箇所の敷地所有権について)つぎに、本件工作物の設置箇所の敷地は原告の所有に属するから、海岸法七条一項かつこ書により、本件工作物の設置につき被告の許可を受けるべき海岸保全区域から除外されているとする原告の主張について検討すると、〈証拠省略〉を総合すれば、訴外愛媛県が昭和三〇年ころから伊予市下吾川の海岸に新たに堤防を築造することとなつたため、訴外伊予市は、右堤防敷地を買収して県に無償で提供(使用貸借の設定)することとし、右堤防築造工事は現地の事情に詳しい建設業者である原告等に請負わす一方、原告と堤防敷地の買収交渉を開始し、昭和三〇年一二月一二日ころ、右両者間で、右堤防は原告所有者の伊予市下吾川字南西原一、七〇六番二の土地に設置されることになるので、右土地のうち堤防敷地となる部分で実測五二四・七平方メートル(一五九坪)を現況で原告から伊予市へ代金四万七、七〇〇円で譲渡すこと等の合意が成立し、右対象土地は登記簿上同一、七〇六番二から同番三に分筆されたうえ、原告から伊予市へ所有権移転登記が経由されるともに、そのころ右約定の代金が原告に支払われたこと、ところがその後、原告から伊予市に対し、同市が買収した右土地は現実に設置された堤防の両側法面部分の敷地を含んでいないので法面の敷地部分をも買収してほしい旨の申出がなされ、さらに伊予市と原告とが売買の交渉をした結果、昭和三三年一二月一二日ころ、右両者間で、右法面部分の敷地相当部分実測四一九・一平方メートル(一二七坪)は先の買収対象の土地とはなつていなかつたこと、そのため右法面敷地相当部分を現況で原告から伊予市へ代金七万六、五〇〇円で譲渡すること等の合意が成立し、右法面部分の敷地は登記簿上同一七〇六番二から同番四に分筆されたうえ、原告から伊予市へ所有権移転登記が経由されるとともに、そのころ右約定の代金が原告に支払われたこと(以上のうち、伊予市が昭和三〇年一二月一二日ころと昭和三三年一二月一二日ころの二度にわたつて、同一、七〇六番三と同番四の土地を原告から堤防敷地として買受け、いずれも所有権移転登記を経由していることは当事者間に争いがない)、伊予市が右のとおり二度にわたつて原告から買受けた土地は、伊予市下吾川の大谷川河口の南岸沿いの地点から南へ連なつた土地であつて、現実に設置された堤防の敷地部分(別紙図面〈省略〉VII VIIIからIII IX線にいたる部分、堤防法面の敷地を含む)であり、原告の設置した本件ポンプ小屋は右堤防の法面上に存在することなどの事実が認められ、右認定をくつがえすにたる証拠はなく、右事実によれば、原告は本件工作物を設置した箇所を含む堤防敷地についての所有権を有しないものというべきである。

なお、原告は、本件工作物を設置した箇所の堤防敷地の地番は伊予市下吾川海岸一、七〇七番一であつて、この部分は伊予市に売却しておらず、原告の所有に属するものである旨主張する。なるほど、〈証拠省略〉によれば、松山地方法務局伊予出張所備付の図面には、検証の結果によつて認められる現実の本件工作物設置箇所は同一、七〇七番一に存在し、伊予市が二度にわたつて買収した前記一、七〇六番三および四の土地の位置は、右図面上では現実の本件工作物設置箇所からはかなり南方に離れた位置に存在するかのような記載になつていることがうかがわれる。しかしながら、もともと、不動産登記簿や法務局備付図面は、不動産上の権利の公示もしくは行政上の便宜などのため作成されたもので

あつて、もとよりこれらによつて不動産上の権利が発生したり消滅したりする性質のものではないのであるから、原告と伊予市との現況による右土地売買の経緯が前記のとおりである以上、登記簿上の地番もしくは法務局備付けの図面上の地番の位置いかんにかかわりなく(したがつてたとい本件工作物設置箇所の敷地の地番が原告主張のとおり同一、七〇七番一であるとしても)、その譲渡の対象とされた土地は、現実に当事者間において堤防敷地として指示された前記土地であるというべきである。したがつて、右一、七〇六番三および四の土地の位置が、右法務局備付けの図面上いかように記載されていようとも、原告は、現実の本件工作物設置箇所を含む堤防(法面)敷地につき、これが所有権を主張しえないものといわなければならない。

四、(本件行政処分の適法性)以上の次第で、原告のなした本件工作物の設置は、他にその権原の存在の主張、立証もないから、被告愛媛県知事の指定した海岸保全区域内に権原なく設置したものというべく、これにつき海岸管理者たる被告の許可を得ていないことは当事者間に争いがないから、原告の本件工作物の設置は海岸法七条一項に違反するものといわざるをえず、したがつて同法一二条一項一号によりその撤去を命じた本件行政処分は適法であるというべきである。

そして、本件土地の掘削箇所についても、前述のとおり被告愛媛県知事の指定した海岸保全区域内に含まれるものであるところ、海岸法八条によれば、右土地の掘削について海岸管理者である知事の許可を要するのは、その土地使用についての権原の有無を問わないものというべきであるから、海岸管理者である被告の許可を得ていないこと当事者間に争いのない本件土地の掘削は、同法八条一項に違反することが明らかであり、同法一二条一項一号によりその原状回復として埋戻しを命じた本件行政処分は違法であるといわなければならない。

第二、堤防撤去を求める訴について

原告は、請求の趣旨第2項において、被告愛媛県知事に対し堤防の撤去を求めているが、右訴は通常の民事訴訟であるから、堤防の権利主体である国または愛媛県を被告としてこれを提起すべきであつて、行政庁としての被告は右の権利主体たりえず、かかる訴につき被告適格を有しないものと解すべきである。したがつて、右訴は、訴訟要件を欠く不適法なものといわざるをえない。

第三、まとめ

よつて、原告の、本件工作物撤去および土地埋戻しを命じた行政処分の取消しを求める請求は、理由がないから、これを棄却することとし、堤防撤去を求める訴は、これを不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条および民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 水地巖 梶本俊明 梶村太市)

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